BBの情報が書籍やネットで氾濫しています。ポット栽培、地植え栽培を実践していると一般に常識となっていることに何故と思うことがいっぱいあります。それを疑うこと無く、多くの方が当たり前のように書かれたり言ったりしています。そんなことに疑問に思っていることを昨年は『常識は非常識』で紹介しました。
今年は『常識はWhy』シリーズで紹介しています。
当園は、いろいろな論文やレポートを参考に、特にこの報告書が当園のBB栽培の科学的な拠り所の一つとしています。
『常識はWhy?No.11』《理論編 No.1》
<理論編No.1>の概要と考察、そして当園の実践
未分解の有機物は強酸性を示します。硝化細菌の活性が抑制されることから窒素源としてアンモニア態窒素を要求することが多いことから米国で栽培方法が開発されました。
酸性土壌(硫黄粉、ピートモス)+アンモニア態窒素(油粕、硫安等の肥料)
これが日本のBB栽培の常識となっているようです。米国で原種のBBが自生している林間では、誰も硫黄粉を撒ない、肥料も撒かない地で元気に育っていることから米国の林間と同様に未分解の有機物を多用してBBの営業栽培に取り組んでいます。
そこで未分解の有機物を多用することで菌根菌を活性化することができると考えました。
実践農家として圃場へ有機物を入れる土壌の深さは。《有機物の位置》
この3点について、実践しながら有機物を多用して、共生菌である菌根菌を活性化する自然栽培での営業栽培を実践し、更に発展させようと取り組んでいます。
『常識はWhy?No.12』《理論編 No.2》
『常識はWhy?No.11』に続いて読み解きながら紹介します。
『菌根菌を活用したツツジ科果樹の低投入環境保全型栽培技術の開発』
NHK出版『趣味の園芸』「ブルーベリー最新栽培テクニック」の執筆者として有名な先生です。園芸学会でhair rootと菌根菌について何回か発表している先生です。
⑴ 異なる地域で栽培されたBBの根系に共生する菌根菌相について
<研究方法>
東京都府中市(黒ボク土)、京都府京丹後市(灰色低地土)、島根県雲南市(灰色低地土)、松江市(赤色土)に栽植のRE系`Woodard`を供試。健全に成長する成木個体よりhair rootを採取。(略)DNAを採取してエリコイド菌根菌(以下ERM菌)をターゲットとしてPCRを行う。(略)塩基配列を決定する。異なる地域で栽培されたBBの根系に共生する菌根菌相を比較考察する。
<研究成果>
(略)PCR結果から、子嚢菌門および担子菌門に属する内生菌が確認できた。本研究により我が国で経済栽培されているBBの根系にもエリコイド菌根菌(以下ERM菌)が共生していることが明らかになった。
菌類のITS領域の塩基配列に基づく分子系統樹を作成した。(図略)子嚢菌門の菌相は地域毎に大別でき、特に担子菌門に属する菌類は京丹後市のサンプルでのみ存在が確認できた。本調査は樹の管理作業(剪定、施肥条件他)がほぼ同じ園で実施しており、特に京丹後市、松江市、雲南市には同一母樹から穂木を採取し、挿し木繁殖した苗を定植している。以上の結果はBBの栽培環境が根系に共生するERM菌相に影響することを示唆するものである。
⑵ ブルーベリーの樹齢と根系におけるhair rootの菌根化率の関係
<研究方法>
材料としてRE系`Tihblue`の挿し木苗(2011年5月挿し木)、2年生苗(2010年5月挿し木)、44年生成木を5個体ずつ供試。挿し木苗については、いずれの個体も健全に頴成長した成木から穂木(休眠枝)を採取し、ピートモスと鹿沼土の混合土(3:1体積比)を用いて挿し木繁殖したものである。2012年5月から6月にかけて各個体から根部を採取し、水道水で洗浄及び0.27%ピロリン酸ソーダで洗浄した。染色のため‥略‥ 染色した根部は検鏡までラクトグリセロール溶液中に保存した。略‥染色した根部を分類し、各個体から1及び2次根を採取した。
光学顕微鏡下で長さ500µmの1及び2次根を観察し、表皮細胞におけるERM菌の菌糸コイルの有無を確認した。(菌糸コイルが確認できた断片数/50断片)×100を算出し、菌根化率とした。
以上の結果から、異なる樹齢のBBから採取したhair rootの菌根化率を根の次数別に比較考察した。
<研究成果>
光学顕微鏡でBBのhair rootを観察したところ、表皮細胞中にERM菌の菌糸コイル及びエンドファイトの存在が確認できた。
菌根化率は同一樹齢では2次根と比較して1次根で高かった。樹齢と菌根化率の間では相関がなかった。BBの挿し木繁殖において休眠枝を穂木とした場合、挿し木後2、3ヶ月後に発根する(1991 Gough)。しかし根の成長は夏季の高温で抑制されるため、1年生苗の根の伸長は前年の秋季及び翌年の春季に限定される。本研究により、1年生苗のhair rootにおける高い菌根化率が明らかになった。以上の結果は、BBの根に対するERM菌の感染は比較的短時間で完了することを示唆するものである。
この報告書は⑴⑵⑶についての研究です。⑴と⑵は、ここへ載せたのですが⑶は日本で自生しているBBと近縁種のナツハゼですので省きました。見ての通りの素晴らしい研究です。参考になりますね。
考えられること
⇒異なる地域で異なる土質でもエリコイド菌根菌(以下ERM菌)の種類は違うのですが共生していることが分かります。菌相が地域毎に大別でき、地域固有の菌種があることも分かります。外来品種ですが共生菌は日本の土着の菌種が共生していることが分かります。
⇒異なる土質でもERM菌が共生しているのですから、土質を選ばないと考えられます。
⇒ERM菌は糸状菌の仲間ですから好気性、CN比の高い未分解の有機物へ菌糸を張り巡らし、更にBBのhair rootへ入り込み無機栄養分を供給しているのですから、ERM菌が土壌より無機栄養分を探して供給していることがわかります。しかも土質を選ばないとなるとスーパーマンですね。
⇒常識でピートモスの多用を勧めているのは、本研究から科学的に立証していますね。ピートモスでなくてもCN比の高い未分解の有機物で十分だと考えられます。
⇒BBに感染しているERM菌が穂木によって地域を移動して土着のERM菌とも両立していることが分かります。ナーセリーによって全国各地へ苗と共にERM菌が移動して土着のERM菌と混ざっていると考えられます。
⇒1次根へ比較的短時間に感染しています。1次根はhair rootの最先端ですので一番新しく伸びた先から次々に短時間で感染していることが分かります。樹齢に関係なく1次根は100%の感染率です。樹齢に関係なくERM菌はプロテアーゼ、ホスファターゼを分泌して土壌中の有機物を分解しているのですから、土壌中に有機物があることが活性化させることだと考えます。
⇒木材チップだけでも育つこと、穂木を木挽きの中でも根をだすこと、コーヒーかすを土壌に多量に入れると育ちがいいこと‥本研究に裏付けられました。
常識では『BBは酸性土壌を好む』ですが、本研究から『BBは未分解の有機物を好む』と考えられます。有機物が堆積すると酸性を示すことから酸性がクローズアップされて常識となっていますが、ERM菌、エンドファイトと共生している菌根菌植物ですので菌糸を張る有機物がメインであると考えられます。それが自然の摂理ではなかと考えています。
まとめると
土質を選ばない
好気性‥ERM菌が生息するには空気が必要ですから通気性の確保
CN比の高い未分解の有機物
BBは未分解の有機物を好む
NH系でスパータンという品種は、私が初心者のときは難しくて何株も枯らしてしまいました。経験からも好気性、有機物の多用で元気に育てることができるようになりました。科学的な検証と経験値とが合致して、この研究を当園の科学的な拠り所の一つとしています。