BBの情報が書籍やネットで氾濫しています。ポット栽培、地植え栽培を実践していると一般に常識となっていることに何故と思うことがいっぱいあります。それを疑うこと無く、多くの方が当たり前のように書かれたり言ったりしています。そんなことに疑問に思っていることを昨年は『常識は非常識』で紹介しました。
今年は『常識はWhy』シリーズで紹介しています。
『常識はWhy?No.11』《理論編 No.1》
『常識はWhy?No.10』では、試行錯誤から硫黄粉を使わず酸性土壌にこだわらない栽培をしていることを紹介しました。試行錯誤をして菌根菌が活性化すると元気な育ちをすることが見えてきたときに、この報告書に出会いました。とても参考になる報告書ですので読み解きながら紹介します。
『菌根菌を活用したツツジ科果樹の低投入環境保全型栽培技術の開発』
NHK出版『趣味の園芸』「ブルーベリー最新栽培テクニック」の執筆者として有名な先生です。園芸学会でhair rootと菌根菌について発表している先生です。
当園は、いろいろな論文やレポートを参考に、特にこの報告書が当園のBB栽培の科学的な拠り所としています。
強酸性の土壌は、重金属イオンが溶出し、過剰な重金属イオンが植物の根を通して害を与える。酸性条件下では硝化細菌の活性が抑制されることから、強酸性の土壌に自生する植物は、重金属イオンに耐性を有し、窒素源としてアンモニア態窒素を要求する場合が多い。
ヒースランドをはじめとする未分解の有機物が堆積して強酸性を示す湿潤な土壌に自生している。強酸性で自生を可能とするメカニズムは不明な点が多いが、近年、エリコイド菌根菌(以下ERM菌)の存在に注目されている。
<2004 hair root ,R.L.Petersonら>ERM菌は宿主から栄養素の供給を受けるが、菌根よりプロテアーゼやホセファターゼを分泌して土壌中の有機物の分解とリンの無機化を促進し、もともと土中に存在する無機栄養分とともに菌糸を通じて植物体に供給している。
<2003 Cairney・Meharg>ERM菌は宿主の重金属吸収を抑制する作用を有する。他の植物が成長困難な劣悪な環境下においても健全な成長ができる。ERM菌が共生した植物とそれ以外の植物との間でERM菌の菌糸を介した生態系ネットワークが存在する可能性があることが報告。
<2007 Bougoureら>湿潤酸性土壌に自生しているツツジ科植物の根系にERM菌が共生している場合が非常に多く、植生タイプがERM菌の多様性に非常に大きな影響を及ぼしている。
<2000 Noeら>ERM菌の中でも優れた機能を有する種を単離・増殖し、生物肥料としての活用を提言する。
<2005他 イソツツジ、飯島ら>国内におけるERM菌および菌根に関する研究は、森林地帯に自生するツツジ科植物を対象としている。
この報告書の前段だけですが内容が密ですので、ここまでで考えたことは以下です。
⇒自然界で自生している原種のBBは、未分解の有機物が堆積して強酸性を示す湿潤な土壌では、重金属イオンに耐性があることが分かります。
⇒米国の農業試験場の学者さんが「酸性土壌にしてアンモニア態窒素(油粕、硫安など)で育つ」ことを実証して、世界に広まり日本にも和訳されて導入されてきました。この報告書の伴先生もNHKの「趣味の園芸」の記述も和訳されたものです。これが常識となり定着しています。後半の記述にある菌根菌に寄せなくても酸性土壌とアンモニア態窒素で育つことを見つけて栽培の常識となったと思います。
⇒酸性土壌にする方法が、常識では地植え栽培では「硫黄粉」か「ピートモス」、ポットの養液栽培では酸性液で酸性にしています。
⇒自生地の未分解の有機物が堆積して強酸性を示す湿潤な土壌は、農地として利用できない「荒れ地」扱いされ、農地としてはほとんど存在しません。そこで未分解の有機物を堆積する強酸性の自生地と同じになるのですから、農地で未分解の有機物を多用することでBBに適した農地になると仮説をたてました。
⇒日本で自生しているBBの近縁種ナツハゼのhair rootの土壌のPHは4.4です。日本の森林の中でも硫黄粉を撒かなくても未分解の有機物の堆積での値で強酸性でアンモニア窒素がなくても自生しています。
⇒共生しているERM菌は好気性の糸状菌の仲間ですので水はけの良い(空気が通る)土壌にすれば活性化します。未分解の有機物は、ほとんどがCN比が高いのです窒素源をERM菌が必要な要素と量をBBへ送ると考えました。ナツハゼが自生しているのですからアンモニア態窒素は与えなくても良いと考えます。この仕組みが自然界の中で、BBの元来持っている潜在能力であり自然ですね。ヒトの腸内細菌と同じですね。
そこで未分解の有機物を多用することでERM菌を活性化することができると考えました。
実践農家として圃場へ有機物を入れる土壌の深さは。《有機物の位置》
安い、多量、入手可能、作業性が良い等から以下を入手して実践しています。
<木材チップ>
当園で針葉樹、広葉樹の両方を使ったのですが差違はありませんでした。それよりもチップの大きさ、形によっての違いがあるように思います。チッパーの性能によってチップの形や大きさに違いがあります。
<コーヒーかす>
近くにコーヒー製造会社があるので多量に安価で入手が可能です。
<籾殻>
当園近くで多量に無料で入手が可能です。米作農家の方が運んで下さいます。ただ9月だけに限られます。
<廃菌床>
安価、多量に入手が可能です。ただ糸状菌が生きていますので積んでおくと30㎝以下は糸状菌は死んで嫌気性細菌になってしまいます。いわゆる腐敗が始まって使えなくなります。運ばれてきたら直ぐに圃場へ運ぶ必要があります。
<落ち葉>
当園では少量しか入手できません。ビニール袋に3,4袋では2、3株しかできません。圃場全体というわけにはいきません。
<わら>
ロールがありますが、作業性が悪い。カッターで切ると作業性が良くなりますが時間がかかります。
<剪定枝>
最高にいいですが、剪定でできますので量は少ないです。
<ピートモス>
最適ですが、当園では高価で地植え栽培で多量には使えません。ポット栽培は根域が狭いので使っています。
<やしがらピート>
これも高価で、当園では地植えには使えません。
<その他>
・庭木の剪定枝‥量が確保できませんでした。
・豆がら‥量、作業性が確保できませんでした。
・茶がら‥工場より多量に入手できますが、直ぐに広げて空気を入れる必要があり作業性に難ですね。
・そばがら、大豆がら‥作業性に難ですね。
・麦茶がら‥多量に入手が可能ですが有効性は?ですね。
・畳‥3枚ほど入れたのですがビニール糸が入ってたいへんな事になりました。×ですね。
・丸太、はぜ足‥畝と畝の間に深さ0.5~1mの位置に入れてました。評価は難しいですね。
当園では、いろいろな有機物の未分解時に強酸性になることがBBの生息に適していることですので、過去にいろいろと実践してきましたが、即結果が分かるものではありませんのでまだまだ実践途中で評価はまだまだのものもあります。
硫黄粉を入れて強酸性にするのではなくBBの生息に一番合った未分解の有機物を探し求めています。ですので酸性度を測定する必要がありません。自然にまかせています。それで十分ですね。あとは菌根菌まかせです。
「BBが自生している北米の山は、誰も硫黄粉や油粕など撒かなくても元気にそだっている」と直感から自然の仕組みで育つという思いから科学的にも研究され解明しつつあることが分かります。
《理論編 No.2》で、伴先生の本論のエリコイド菌根菌、エンドファイトについて紹介します。